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Liner Notes

「I BELIEVE IN ME」誕生に寄せて

文●神 康幸

ご存知のように、ヒトの肉体の中には、天使と悪魔が棲んでいる。
しかし、いったい、どこに潜んでいるのかはわからない。
大脳の中で冬眠でもしているのか、それとも五臓六腑のどこかでせめぎ合っているのか。
では、どちらを目覚めさせるか。
それは、ヒトが知性を持った瞬間から永遠に繰り返されているテーマだ。
ギリシャの哲学者や、キリストやブッダや、中国の老子荘子も考え抜いた。
ただ、結論は出てはいない。
天使も悪魔も、どちらも強烈なパワーの持ち主であることは言うまでもない。
破壊か創造か。
どちらかを解き放つと、時代が、己が劇的に変化していく。

さて、lynch.のメジャー・デビューアルバムである。
PLAYボタンを押した瞬間から、いや、何度聴いても、同じ感触が残る。
lynch.は……、己の中から天使を産み出そうともがいているのではないかと。
「INTRODUCTION」に続く「UNTIL I DIE」、「I BELIEVE IN ME」の2連発。
この双子に共通するキーワードは「ME」である。
混沌とする社会、壊れゆく地球環境の中で、ヒト全員が悩み苦しんでいる。
しかし、lynch.は、まずは己から進化を始める第一歩を刻もうとする集団なのだ。
生涯に亘る戦闘宣言をデビューアルバムの冒頭に配置したロックバンドがいたか。
6曲目に「-273.15℃」(絶対零度)というナンバーが存在するように、
lynch.は、一度人生においてどん底を味わったのではないかと思う。
あるいは、悪魔と鏡の前で対面したか。
ユーフラテス川のほとりでTIAMATに舌なめずりされたか。
しかし、5人は悪魔と寄り添うことを拒否して、無謀なまでのライブツアーを繰り返した。
頭の中が真っ白になるライブを繰り返した。
演奏をどこまで研ぎ澄ますことができるのか挑み続けたい。完全燃焼を超越する高みへと。
誰に頼まれたわけでもない。
ただ、己と向き合うことでしか、天使は肉体の中から出てこないのだ。
願うことだ。願うことだ。

最終曲「A GLEAM IN EYE」が、素晴らしい。
「ねがいよ 鮮やかにいま輝け 凛と華咲け」
このフレーズは、バンドの命が尽きるまで、メンバーとファンが歌い続けるだろう。
生涯に亘って付き合うべきバンドの登場に、僕は心から拍手を送りたい。