DISC INFORMATION
- トロイカ
-
マット・ハイモヴィッツ(チェロ) クリストファー・オライリー(ピアノ)
PENTATONE
flac 96kHz/24bit
2018/06/20
- DESCRIPTION
ハイモヴィッツが音楽で問う現代ロシア
★ハイモヴィッツの新譜は旧ソ連とロシアのチェロ作品を集めていますが、一筋縄にいかないところが彼ならでは。アルバム・タイトルの「トロイカ」はロシアの三頭立ての馬車で、ここではラフマニノフ、ショスタコーヴィチ、プロコフィエフを指します。この馬車で帝政ロシアからソ連、そして現時点のロシアを音楽で旅する内容となっています。
1.ドミトリー・ショスタコーヴィチ:ワルツ第2番
2.ドミトリー・ショスタコーヴィチ:チェロ・ソナタ ニ短調 作品40 第1楽章: Allegro non troppo
3.ドミトリー・ショスタコーヴィチ:チェロ・ソナタ ニ短調 作品40 第2楽章: Allegro
4.ドミトリー・ショスタコーヴィチ:チェロ・ソナタ ニ短調 作品40 第3楽章:Largo
5.ドミトリー・ショスタコーヴィチ:チェロ・ソナタ ニ短調 作品40 第4楽章:Allegro
6.セルゲイ・プロコフィエフ:トロイカ「キージェ中尉」より
7.セルゲイ・プロコフィエフ:チェロ・ソナタ ハ長調 作品119 第1楽章:Andante grave
8.セルゲイ・プロコフィエフ:チェロ・ソナタ ハ長調 作品119 第2楽章:Moderato
9.セルゲイ・プロコフィエフ:チェロ・ソナタ ハ長調 作品119 第3楽章:Allegro ma non troppo
10.セルゲイ・ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調 作品19 第1楽章: Lento - Allegro moderato
11.セルゲイ・ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調 作品19 第2楽章: Allegro scherzando
12.セルゲイ・ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調 作品19 第3楽章:Andante
13.セルゲイ・ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調 作品19 第4楽章:Allegro mosso
14.セルゲイ・ラフマニノフ:ヴォカリーズ
15.ヴォクトル・ツォイ:ククーシュカ(かっこう)
16.プッシー・ライオット:パンク プレイヤー(聖母マリア様、プーチンを追い出してください)
17.ジョン・レノン ポールマッカートニー バック イン ザUSSR
★メインはこの三者のソナタで、ハイモヴィッツは堂々たる辛口の演奏を繰り広げています。いずれもピアノ・パートが伴奏を越えた難しさと存在感を示しますが、オライリーがヴィルトゥオージぶりを発揮して効果をあげています。そのとなりに同じ作曲家の小品を添えていますが、いずれも意味深。ショスタコーヴィチの「ワルツ第2番」は「ステージ・オーケストラのための組曲」の一篇で、ユダヤ的な感覚を示しています。ハイモヴィッツはむしろ、キューブリック監督の遺作映画「アイズ・ワイド・シャット」でセクシャリティの問題について効果的に使われていることを意識して選んだと述べています。プロコフィエフの「トロイカ」はファインツィンメル監督の映画「キージェ中尉」の一曲。存在しないのに、人々の噂でキージェを英雄にしてしまった政府の愚かさと不注意を示唆し、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」で言葉の無意味さを実証します。
★ジミー・ヘンドリックスやレッド・ツェッペリンらのロックをチェロで奏して話題になったハイモヴィッツ、ここでもロシアがらみの刺激的なものを披露。ヴィクトル・ツォイ(1962-1990)は旧ソ連末期に若者の間で絶大な人気を誇ったロックバンド「キノー」のリーダー。1990年代初めに来日予定がありましたが、自動車事故で急逝しました。ツォイは朝鮮系ソ連人でしたが、共産主義末期の生活の苦しさ、アフガニスタン出兵などの政策を問う歌を数多く発表し、教祖的な存在でした。その代表作「ククーシュカ(かっこう)」がクラシック界に登場。
★ツォイから20年後、もはや共産主義国でないロシアで物議をかもしたのがフェミニスト・パンク・ロックバンド「プッシー・ライオット」。10人ほどの若いロシア女性から成り、救世主ハリストス大聖堂で「聖母マリア様、プーチンを追い出してください」を歌ったため、2012年にメンバーが逮捕されました。世界のミュージシャンが釈放を要求したことでニュースとなりました。ハイモヴィッツもメッセージを込めていますが、救世主ハリストス大聖堂はスターリンが破壊し、ロストロポーヴィチが中心になって再建した建造物なのが象徴的。そしてビートルズの「バック・トゥU.S.S.R」。トロイカがどこへ向かうのか、ハイモヴィッツの演奏が教えてくれます。